気ままに雑記。
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Si vales, bene est; ego valeo.
読み物とか、そういう大それたもんでもないです。
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闇夜に飛び立つ鳥の足下、ひとつの人影が扉の内に消えた。
そこは、かつて栄えた港通りの一角、日頃から冒険者たちの集う酒場。
大ホールでは祝賀会が開かれ、多くの人々が互いの健闘と生還を喜び合っていた。
宴の喧騒を遠巻きに聞くカウンターの、その更に奥。
ヒトを避けるようにして座る一人の青年の姿があった。
闇色のコートを羽織り、胸元まで伸ばされた髪は青味を帯びた銀。
瞳は氷を思わせるような青で、左頬から首にかけては文様のような何かが描かれていた。
青年は卓上に置かれたグラスを手に取ると、底に僅かに残っていた液体を乾す。
視界の端で歓談する冒険者達の中に見知った人物の姿を見止めたが、そちらに目を向ける風はない。
そのまま空になったグラスを机に置くと席を立ち、床に置かれた荷物に手をかけた。
小さな包みは、大きさの割にずしりと重い。
少しだけ勢いをつけて手荷物を持ち上げると肩にかけ、顔を上げた。
先程見かけた青い猫の姿はもうそこにはなく、見知らぬ冒険者達だけが歓談を続けていた。
青年は小さく笑うと、今度は先程とは逆の方向に酒場の扉をくぐった。
後ろで静かな、そして乾いた音をたてて扉が閉まる。
外は暗く、吐く息の白さだけが月の光を反射していた。
いつも月を見上げては歩調を乱す獣の気配は、今はもう薄く、遠い。
これからまたしばらくは一人旅か――何の気なしにそう考えてしまってから、溜息にも似た笑いを零す。
いつの間にか、誰かと行動することに慣れてしまっている自分に。
思い返せば『冒険者』として旅をした2年間で、それまでの自分では想像も付かぬほどのヒトと関わってきたものだ。
小さな体に強き志を秘めた、土竜の少女。
回復の要を担った、少女の姿を持ったファルートの司祭。
くるくると表情の変わる、明るきエルブの魔法剣士。
斧使いの元軍人、サイボーグの特性を持つバルタンの戦士。
護る事を性とした、愛に生きる猫耳ライカンス。
お祭り騒ぎが好きな、神出鬼没の鳳凰の幼鳥。
彼ら全てと最後まで行動を共にしたわけではないが、願わくは――
「彼らの旅路に、精霊の加護があらん事を…。」
風もないのに髪が揺れた。
それに気付き、ふ、と微笑むと、青年は語りかけるように口を開く。
「大丈夫ですよ、一人旅には慣れていますから。 それに、ここからは貴方と一緒でしょう?」
応えるように、優しい風が頬を撫ぜた。
「さて、少しばかり急ぎましょうか。夜明けまでは、もう幾許もなさそうですからね…。」
闇の中、風を連れて青年は歩き出す。
始まりと終わりの地で得たモノを届けに。
彼が再びこの地に戻ってくることはあるのかどうか。
それはまだ、誰も知らない……。
――To be continued...?